『銃・病原菌・鉄 下  一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』ジャレド・ダイアモンド



読み終えて世界観が変わる。これこそ読書の醍醐味。ベストの称号に嘘はなかった。


 人類は、その歩みをアフリカ大陸から始めたはず。
 なのになぜ、アフリカの民が世界に広く、その勢力を広げるに至らなかったのか。

 はやくから文明が花開き、多くの発明がなされた中国。
 その中国が、文明のレースに出遅れていたヨーロッパの国々に追い越されたのはなぜか。


 かつては、そこに人種的な優位性を理由として持ち出されていた時代もあった。遺伝子研究が進み、人種の間の差異などなきに等しいとはっきりした今でも、感情的には払拭しきれない人もいるだろう。あるいは無意識に、もしくは無思慮に、いわゆる「後進」の国の住民は人種的に劣っていると考える人は日本人の中にもいるだろう。

 現在の人類の勢力図を作り出したのは、決して人種的な優越の結果ではなく、どこの大陸に住んでいたのかという偶然のなせる技であると、作者はあらためて言う。

 農作物として育てやすい野生種がどれだけあったか。
 気候は植物を育てやすいか。土地はどうなのか。
 家畜として飼い慣らせる野生動物がどれだけいたか。 
 
 それだけの偶然からスタートし、人類の発展のレースは始まった。
 人口が増え、食糧の余剰が生まれ、政治機構と技術の発展が芽生える。
 そしてその伝播。
 伝播しやすい地形。海の存在。あるいは高い山脈の存在。
 東西に広い大陸は、似た気候の中で農業技術と農産物が早く広がり、
 南北に長い大陸は、気候の変化の壁を越えられず、停滞する。

 始まりは偶然ではあるが、決定的でもある。


 人類の歩みを語るには、一つの視点だけでは不足である。
 考古学だけでも足りない。進化論だけでも語れない。生物としての人類が、どんな環境で時を越えてきたのか。そこが問題となる。

 筆者自身が、医学・分子生理学・進化生物学・分子生物学・遺伝子学・生物地理学・環境地理学・考古学・人類学・言語学・歴史と広範囲の学問に詳しいからこそ成し遂げられた成果である本書。読んでいるこちらも、様々な学問への興味が沸いてくる。生物・地形・気候・言語・・・学校で学んだバラバラの項目も、こんな形で統合した結果が示されればもっとワクワクしたものになるだろうに。

 それぞれの知識という点が、興味という接着剤で繋がって線となり、やがて網目を作り出し、広がっていく。そもそも学ぶとはそういうことだったのではないか。ことに、職業として専門を極めるのは意味あることとしても、我々は素人であるという恵まれた立場で好き勝手に模様を紡ぐ自由があるはず。そんなお手本となる本書。

 読了後は地図を見る目も変わる予感がする。
 植物や、動物に対する考えも変わった。
 世界の歴史を、地形や気候の影響をもって見直すこともできる。
 自ら世界を作ろうとするクリエイターなら、非常に参考になるはずだ。

 素晴らしい。ベストの称号に嘘はなかった。

【読了日2021年2月25日】

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